2020 SPRING

朝 / 禰覇 楓

三面彩光の高層マンションアンティークの洒落た食器にサラダと卵焼きが盛り付けられてる電動のコーヒーミルと怒鳴り声ばたん、と閉まるドアさわがしい朝天気予報を見て家を出るうっかり今日もバスを逃した雲がひとつあるばかみたいに青い空とアスファルトの割…

音楽 / 二三川 練

たとえばギター一本で世界中の人を幸福にするような歌手が巨大なスピーカーから流れる電子音声に殺されてしまった日わたしたちの目は街中に張り巡らされた監視カメラよりも精密にわたしたちの生活をひもといてゆく右手を挙げてはならないそれは抵抗を意味する…

虚像 / 穂高 遊

彼女の美しい指先は震えていたわたしは彼女を安心させたくてできるだけ優しく微笑んでみせたどうやら上手くはいかなかった彼女は頬を僅かに引き攣らせただけ彼女はわたしでありわたしは彼女になる同じラインストーンが煌めいている彼女の指先は美しくわたしの…

silent letter / 穂高 遊

いつの間にやらここに居たのか樟脳のにおいが染みついた古いあかずの箪笥の中にはむかしむかしの酸素と闇と記憶の破片がしまわれていて何にもなれない何かの瞳がちがう世界へ旅立つその日を夢見ているとかいないとか

清明 / 戸嶋 歩

コートは要らなかった湿った手で買い物かばんをベッドの上に投げる春の空気は身体にわるく気付けば浸水している靴のように生き物の香りが肺いっぱいに満ちてくるいつまでも西日が射していて時間の長さがわからない熱をふくんだカーテンをひらいて覗いた窓のむ…

ワンルーム / 戸嶋 歩

月光がさしこむ本来の使い方ではないからベッドが狭いと思うやわらかくて少しつめたい肩にふれるいつのまにかきみの香りがシーツ一面に染みている明日ねむるときまで同じつよさで残っていることを想うきみをいま揺り起こして夢の内容をおしえてもらうような上…

散歩日和 / 志邑 左記

洗濯物が飛ばされてぼくはしぶしぶ家を出た裏の駐車場に落ちたTシャツは洗う前より汚れている砂っぽいそれをたたきながらぼくはコンビニへ行ったけれどほんとうに手ぶらで出てきたのを忘れていた部屋へもどると不在着信が二度そのあとにひとつメッセージが来…

春になる / 久間木 志瀬

頼りない胸のうすさがカルアミルクのうすさにかさなる甘いものを摂るたびにからだが花に近づいていることに気づく春になるそとから聞こえてくる声が変わる庭を横切る黒い猫がはいている白い靴下を自分が編んだもののように思う春になる声をかける前に手で触れ…

土地のことば / 篠尾 早那

その土地にしかない細かな言葉の感覚があってそれが伝わらない寂しさは晴れの日も雨の日も変わらず素知らぬ顔で立つカーネルサンダースに似ているこの土地では手袋をつけることはあっても履くことはなくてマフラーがいずいと騒ぐこともなく雪のない冬が終わる…

会員コメント

禰覇 楓時間がいっぱいあるようでそうでもない。じわじわ家具を増やしています。二三川 練詩がだいぶ溜まってきたのでそろそろ一度まとめたいという気持ちがあります。穂高 遊今年の5月に北海道へ行く計画があったのですが、頓挫してしまいました。また来…