清明 / 戸嶋 歩

コートは要らなかった
湿った手で
買い物かばんをベッドの上に投げる
春の空気は身体にわるく
気付けば浸水している靴のように
生き物の香りが肺いっぱいに満ちてくる

いつまでも西日が射していて
時間の長さがわからない
熱をふくんだカーテンをひらいて
覗いた窓のむこうでは
燕の巣がくずれていて
世界遺産の遺跡と同じ色で
軒下にはりついている